『クラウドリプレイシステム』で日本民間放送連盟賞 技術部門優秀賞に選出

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日本民間放送連盟賞

日本民間放送連盟賞(民放連賞)は、質の高い番組がより多く制作・放送されることを促すとともに、CM制作や技術開発の質的向上と、放送による社会貢献活動等のより一層の発展を図ることを目的に、民放連が1953年に創設されました。

技術部門は、放送技術に関する開発・改良等によって、民放事業に貢献し、その発展に寄与したと認められるものに授与されるものであり、この度、スポーツ中継で活用した「クラウドリプレイシステム」が優秀賞をいただくことができました。

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現場の“思いつき”を内製化 生放送中にクラウドから瞬時に映像活用 クラウドリプレイシステム
毎日放送

研究・開発担当者 松本卓紘、木戸勇太

クラウド上に保存した大量の過去素材の中から、必要な映像を検索してダウンロードするだけで、放送機器から番組に素材を送出できるシステムを開発した。
これにより、スポーツ中継のオンエア中に、試合展開に合わせた過去素材を即時に活用することが可能になり、演出の幅が広がるとともに、事前の素材準備作業の負担軽減にもつながり、テレビ制作技術の高度化と効率化に貢献した。

クラウドリプレイシステム

概要

スポーツ中継では、選手のプレーや試合の展開をリアルタイムで届けながら、視聴者により試合を楽しんでもらうために、過去の関連映像も織り交ぜて放送しています。例えば、野球中継であれば「前日のホームラン」や「2日前の逆転タイムリー」などの映像を活用することで、その時の打席への期待を高めることができます。これまでは、使用する可能性の高いシーンのみを事前に選別し、XDCAMディスクに書き出して放送(OA)に備えていました。ただし、スポーツには台本がありません。全てのシーンを網羅し準備するのは現実的ではなく、「そういえば4月に同じ投手から満塁ホームランを打っていた」と気付いても、その貴重なシーンの映像を準備していなかったため放送に使えないといったケースがしばしばありました。

この課題を解決したのが、今回開発・導入したクラウドリプレイシステム(以下、クラリプ)です。大量の過去素材の中から、必要な映像をすぐに検索できるようになりました。画面上で映像素材のプレビューチェックをしダウンロードするだけで、放送中の試合展開に合わせた過去素材を即時に活用することが可能になります。これにより、演出の幅が広がっただけでなく、OA前の事前準備としてXDCAMディスクに書き込んでいた作業の効率化にも貢献することができました。

アイデアの着想から番組活用に至るまで

スポーツ中継の現場から生まれたクラリプは、スポーツディレクターの一つのアイデアから始まりました。きっかけは、クラウドについての知識を得ようと参加した社内の超入門講座で、クラウドストレージを活用すれば、多量にストックされた動画素材をいつでも取り出せることを知り、ある記憶が蘇りました。

数年前に、海外のバスケットボール中継を視聴していた際、試合の終盤である映像が流れました。それは、生中継の試合と「同じチーム同士が同じ残り時間で同じ点差だった」という数年前の映像でした。当時、そのような演出を実現しようとした場合、膨大な量の映像メディアが必要になると考え、どのように実現しているのか想像できませんでした。しかし、クラウドストレージを活用すれば、物理的なメディアを準備する必要がなく、必要な映像をすぐに送出できるのではないか。そうすればあの海外の中継のようなことができるかもしれない。この閃きをきっかけに、技術部門に相談、クラリプの開発がスタートしました。

開発を振り返って

ディレクターの"思いつき"から開発を始め、完全内製化で現在も機能のアップデートを重ねているクラウドリプレイシステム。このシステムが野球中継や情報番組で活躍した要因は、制作技術を経験した人材がIT開発に携わったことにあります。制作技術を経験したからこそ、制作側の多忙な業務フローを深く理解し、"ユーザーファースト"の視点でシステム設計を行うことができました。

当初、このプロジェクトが始まるまでは、クラウドサービスはオンプレミスに比べて映像素材の転送速度が遅く、生放送には不向きであると考えていました。しかし実際に開発を進めると、今回のような用途においては転送速度の差は問題にならず、むしろ大量の映像素材を保存する際のハードウェア管理の負担軽減や、マネージドサービスを活用した編集作業の効率化など、想定以上のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現することができました。

クラウドと放送システムを組み合わせた新たなサービスは、スポーツ中継の多彩な演出だけでなく、番組制作システムにおける新たな提案のきっかけにもつながりました。

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